*** アナタノオト ***




わたしは、ドジで、弱くて、無能ってよく言われてしまいます。
(でも、無能じゃなくて久能です。)
トロくて……もちろん、歩くスピードも遅い。

いつも、前を歩くハルカさまの後ろを、ついていくことしか出来ません。

今日も、わたしは少しだけ前を歩くハルカさまを、必死に追いかける。


「きゃうっ!!」


―ドサっ。


頑張っていつもより早めに歩いてみた所為か、何もないところで転んでしまった。
……はずかしい。

「あーあー、もう何やってるんだよ、無能」

ハルカさまは、少しあきれながらも、わたしのほうへ戻ってきてくれる。
(わたしは、そんなところが大好きです。)

「ふえええ、無能じゃなくて、久能ですぅっ」
「大丈夫か?」
「はい、ちゃんと……自分で立てます……くすん」

立ち上がったわたしの手は、突然、ハルカさまに、ぎゅっと握られた。

「え……?」


どくん、どくん、どくん。


「こうすれば、転ばないし、同じスピードで歩いてやれるから」

そう言って、ハルカさまは、ぎゅっと強く手を握る。
わたしの手を握るハルカさまの手は、とてもあたたかくて。

そのあたたかさに……どきどきして。
そして、うれしくて幸せで。


どくん、どくん、どくん。


あれ?
わたしの、しあわせな気持ちとは別に、もうひとつ流れ込んでくる音。

とても、どきどきして、うれしくて、しあわせな感情。

どくん、どくん、どくん、って、もうひとつ。
かすかだけれど。


……そうだ。

鶺鴒と葦牙は精神感応するって。

このどきどきは、わたしの葦牙さまが感じているもの…?

つまり、ハルカさまも……

「今、ハルカさまも、……わたしと同じですか?」
「……なっ、何がだよっ」


どくん、どくん、どくん。


赤くなる横顔。
息が出来ないほど早くなる、ふたつの音。
それが嬉しくて。
わたしは、ただ、ぎゅっと手を握り返した。







ほのぼの甘いのをめざした。