※相変わらずif的要素が多いです。久能とハルカが帝都へ戻ってきてます。平和になって、皆人とハルカは大学生。





AM 6:48 / AM 7:54 / PM 12:35
PM 6:21 / PM 8:32 / 今日のおわり、明日のはじまりごろ


   
AM 6:48


「……さま、起きてください〜」
「あと……5分……」
「うぅ〜……しよう……ずかし…い……けど……んっ」

ちゅっ

「んん?」

「ハルカさま、お、お、おはようございますっ!」

「く、久能?お、おはよう?」

頬に当たった、やわらかい感触。
目を開けると、顔を真っ赤にして俺の顔を覗き込んでいる久能がいた。
……一気に目が覚めた。




AM 7:54


「ハルカさま、いってらっしゃい……です」

この瞬間、久能はいつも寂しそうな顔をする。
久能の寂しそうな顔は、あまり見たくない。

「良い子で留守番してろよ」

だから、そう言って必ず頭を撫でてやる。
そうすると、少しだけ嬉しそうな顔をするから。
いつもは、そうして、家から出るのだけど……

「は、ハルカさま、忘れ物ですっ」

久能は、俺をひきとめて、顔を赤くしながら、目を………

……え?

「く、久能?」
「あの、いってらっしゃいの……き、キ……」
「は!?いつもそんなことしないし!」

なんだよ!それ!どこの新婚だよ!
って、目をつ、………瞑るな!

………。

「バカ無能……あー……はぁ、…いってきます……」

ため息をつき、仕方なく、まったく動く気配のない久能のまぶたのあたりに、軽く口付け、家を出た。


(なんか、今日の久能……おかしくねえ?)


「まぶた……ちょっと残念……うぅ、でも、は、恥ずかしいですぅ……だけど、今日は………」




PM 12:35


「あ、鷸くん」
「ああ…佐橋」

昼食をとっていたら、佐橋に会った。

「おめでとう」
「は……何が?」
「え……?忘れてる?あれ、久能さんもまだ何も?」
「……久能?」

さっぱりわけがわからず、頭に?マークを浮かべていたら、佐橋は「しまった!」と言わんばかりの表情になった。

「なんでもないよ!忘れて!」
「いや、無理だろ」

思わずつっこむと、更に佐橋は「あわあわ…」と…

「余計なこと言っちゃった……えっと……うん、じゃ、じゃあね!」


……あ。逃げた。


(久能も佐橋も……何なんだ)




PM 6:21


朝から様子のおかしい久能が気になり、なるべく急いで帰宅。

そういえば、大学を出た時に、また佐橋がいた。

俺の顔を見るなり、走って、また逃げられたけれど。
……失礼なやつ。

(はらへった…)

「ただいま」
「ははは、は、ハルカさま、おかえりなさいっ」

久能が、パタパタと足音をたてながら走ってくる。
手に持ったおたまが見え、夕食の準備をしていたのか、と、ちょっと嬉しかったのだが。だが!

「はいはい、ただ………いっ?!」

その姿を見て、俺は後ろに下がってドアを閉めた。

手に持ったおたま。それは良い。
フリフリのエプロン。問題は、そこではない。
その、エプロンの、下だ。
大丈夫だ、落ち着け、俺。

「は、ハルカさまぁ〜、は、入らないんですか?うぅ……」

「……服を着てくれ、はなしは、そ、それからだ!」

ドア越しなので見えないが、多分、久能は真っ赤になっているだろう。
恥ずかしいなら、最初から、し、しないでくれ!
(俺も、絶対、真っ赤だ、バカ!!)

……やっぱり、今日の久能はおかしい。




PM 8:32


……とても、疲れた。
様子がおかしい久能から結局なにも聞けず、そのまま振り回され、
「風呂入ってくる!」と、浴室へ逃げ、やっとひとりになり、一息……のんびり、お風呂タイム……

の、はずだったんだが?

「ハルカさま、わたし、お背中流しますっ」

タオル一枚の久能、登場。

「ちょ、ちょちょ、おい!服を着ろ!」
「……服を着たままでお風呂は嫌です…」
「じゃあ来るな!」
「ハルカさまぁ〜……わたしじゃ、いや……ですか?びぇっ…ビェエ…」

「うわっ、ここで泣くと響くから……はぁ、嫌じゃないから、こっち来い」
こんな響く場所で泣かれたらたまらないので、仕方なく招き入れる。

しかし、流石。ドジな行動には定評がある久能。

「はい……あうっ」
「あ、あぶなっ、」

石鹸が転がっていたなんてお約束が無いにも関わらず
……何もないところで……滑った。

―どんっ

「ふぇっ」
「いてぇ……」

後ろに倒れた久能。
そんな久能を後から支えようとした俺も、(情けないことに)支えきれずに倒れてしまい……

「すみません…大丈夫ですか?ハルカさま」
「気をつけろ、ば、ば、馬鹿、あ、うわっ」

倒れた拍子に、久能は俺の腕の中へ。
しかも、俺の手は、タオルすら落ちてしまった状態の久能の……

む、胸を、後ろから……がっしり……掴んじゃって、………

「……ひゃん…ハルカ…さま……ぁっ」
「ばばば、ばか、久能、い、い、いやらしい声を出すなっ、びくびくするなっ!」

むにむにむに。

「ふぁ……だっ…てぇ……ハルカさま…手、動いて、ますっ」

あー、小さいけど、やわら……

………。

「わ、わ、わりぃ」

ぱっ、と手を離し、目をそらす。
すみません、俺もおとこのこなので、つい。手が勝手に。


「でも、わ、わたし、ハルカさまなら……なんでもされたいです」
「おま、………これ以上変なこと言うな、色々、やばい」




今日のおわり、明日のはじまりごろ


すっかりくたくたな俺。
あの後は……なにもなかった。本当に。本当だから。

やっと開放!就寝!……と思いきや、何故か、久能が布団の前でじっと正座している。

「久能、なにやってんだ?俺に今日のお説教でもされたいの?」
「ち、ちがいますぅ〜…お、お説教って……」
「俺は……久能がそんな慎みのない子だったなんてショックだ!」

「うぅ…ちがいますぅ…」とジメジメする久能。
いつも通り……のようにも見えるけど、どこかそわそわしているようにも見えるような。
やっぱり今日の久能はおかしい。

「久能、おま「ハハハ、ハルカさま!!!」

おまえ、おかしくない?
そう続けるつもりだった言葉は、久能の大きな声に遮られた。

「こここ、これっ!!」
何か思い切ったように差し出されたもの。
それは、小さな……

「は、花…?」

「あの、ハルカさま、お誕生日おめでとうございます…っ」

たんじょう…び?

「わたし、ハルカさまになにをあげればいいのかわからなくて……でも、喜んでほしくて……だから、出雲荘のみなさんに聞いたんです」

あぁ、なるほど。
お昼に、佐橋が言った言葉。
おめでとうの言葉も、久能にまだ聞いていないのか、と言ったことも。
つまり、佐橋は久能から俺の誕生日のことを聞いていたし、こんなに悩んでいた久能に、一番におめでとう、と言わせたかったのだろう。
だから、口を滑らせたことに慌てて、逃げた、と。

「……あの、ひとりはこわかったけど、頑張ってひとりで行きましたっ」

たしかに、あそこは……こわい。色んな意味で。俺もこわい。
でも、弱虫な久能が、ひとりで行ったなんて。
俺のために?……ヤバい、感動して少し涙が出そうになったかもしれない。

「特に……No.3の方がたくさん教えてくれました。むのーちゃんの、おいろけさくせん☆です。あの…よくわからないし、無能じゃないし…久能ですけど……」

……あの不思議な行動はそれの所為か。
あの酔っぱらいが考えそうなことだな。
ってわからないのに乗るなよ。アホか。

「あと、No.2の方も……さすが智の鶺鴒です」

……痴の鶺鴒の間違いだろ。

「でも、結さんと佐橋さんは、わたしが贈りたいものを選べば良いって……だから、これは……わたしが贈りたいものなんです……っひっく」
「ちょ、なんで泣く!?」

すべての種明かしをしながら、何故か久能は大粒の涙を溢しはじめた。

「ぐすっ……ごめんなさい……わたし、こんなものしか思い付かなくて、ハルカさまを喜ばせることができない」
「バカ……おまえはやっぱりバカだな」

こんなことで泣き出すなんて。
俺は、今日の久能の不自然な行動よりも、これが一番嬉しいのに。
そんなこともわからないなんて。

「やっぱりお前は無能だよ」

俺にとっては最高の無能だ、と小さく付けたし、頭を撫でてやる。

……でも、でもな、やっぱり無能だ!




「無能……俺の誕生日は……明日」




「え……!ふぇえ!!そんな!!」

ぶわっ、とまた泣き出す久能だけど、俺はついつい笑ってしまう。

「ははは、いいよ、これもらってやる。けど、なんで花?」
「あの……大好きなひとにお花を贈るとしあわせになれるって……くすん」
「ふーん……」
「!!ごめんなさい、これでは、わたしがしあわせになるだけで、ハルカさまは…!!」
「じゃあ、俺が今度、久能に…………なんでもねぇ」

そうすれば二人とも、しあわせになれるんだろ?
……そう言おうとして……恥ずかしいから、やめた。

「ハルカさま……それって………」
「そ、そんなんじゃねーよ!調子に乗るな!」
「うぅ、まだ何も言ってません……」

「はぁ…俺の誕生日なんてどうでも良いのに」
「どうでもよくなんかありません!!だって…わたし、ハルカさまに出逢えてすごくしあわせなんです……ハルカさまがいなかったらわたし………だから、とても大事な日なんです」
「久能」
「はい?」

「もう少し、こっちに来い……今度はちゃんとしてやるから」

……朝は、まぶただったけど。

「ってか、俺がしたい。……ごめん、もう一個もらう」


意味がわからず、首をかしげる久能を無視して、手を引っ張り、
大切な日のはじまりに、半ば強引に最後のプレゼントをもらった。





思ったんだけど、8月9日って夏休みだよね。補講期間ってことにしておいてください。