*** いっしょにたべよう ***




「いただきます」
「はい、どうぞ!」

僕が手を合わせて、それから箸を持つと、向かえ側に座るユカリさんが、にっこりと微笑む。

「ん、今日も美味しいです」
「えへへ、ありがと」
「ユカリさんってお料理上手ですよね」
「え、そうかなっ?そんなことはないと思うけど……」

目の前に並ぶ料理は、どれもユカリさんが作ってくれたものだ。
ユカリさんは、こんな風に言ったけれど、ユカリさんが作ってくれる料理は、いつも美味しくて、僕はついつい、たくさん食べすぎてしまう。
それくらい……本当に……

「……美味しいと思います」
「そ、そうかなぁ?」
「はいっ!」
「じゃ、じゃあ、それは隠し味のお陰かなっ」
「え?」

ユカリさんの言葉に、僕が首を傾げると、ユカリさんは「椎菜への愛がたくさんつまってるからねっ!」なんて言って、照れながら笑う。
僕も、少し照れたけれど、それよりも嬉しい気持ちでいっぱいになって、顔がゆるんでしまうのが自分でもわかった。

「じゃあ、僕もきっと上手にお料理できますね」
「そうだね、椎菜、器用だしっ」
「そういうことじゃなくて……」
「ん?」
「僕も、ユカリさんが大好きだから……もっともっと美味しく作れちゃうかも」

くすくすと笑いながら僕がそう言うと、卵焼きに箸を伸ばしていたユカリさんの手は止まり、そのまま固まって、かーっと顔が真っ赤になる。
ユカリさんは、とても純粋で、そんなところが僕は大好きだ。
だから、ついつい、もっとそんな反応が見たいと意地悪をしたくなる。

「ユカリさん、大丈夫ですか?」
「えっ、あっ、うん!」
「じゃあ、あーん」
「!?!?」

僕は箸で卵焼きを掴み、ユカリさんの方へ向けて、微笑みかける。
すると、固まったままのユカリさんは目を丸くして、ぱちぱちぱち、と何度も瞬きをする。
その姿がおかしくて、だけど僕にはとても可愛く思えてしまう。

「食べてくれませんか?」
「う……っ、もぉ……」

少し恥ずかしそうに、小さく口を開けるユカリさん。
そして、僕の箸に掴まれた卵焼きを、ぱくり、と口に入れた。

「椎菜、これ、普通逆じゃない?女の子が、あーんってしてあげるんじゃないかなぁ」
「してくれるんですか?」
「えっ!?し、椎菜ぁっ!」

慌てるユカリさんに「冗談ですよ」と笑うと、ユカリさんは少し膨れ、それから笑う。


あ、ユカリさんのお料理が美味しい理由、もうひとつ発見。

こんな風に、ふたりで笑いながら食べること。


……くーも、こんな風に美味しいお料理が食べれてるといいな。
ユカリさんの笑顔を見ながら、僕は、ひとり、心の中で思った。







椎菜がくろい……