Change.0 「ごめんなさい、ごめんなさい、ハルカさまぁ」 「お前本当に、なにやっても無能」 とある休日。 スーパーの袋を抱え、家に向かい歩く二人。 「無能じゃないです、でも、ごめんなさい、うぅ…」 つい、数時間前。 「ハルカさまのためにがんばります!」と張り切って昼食の準備をはじめた久能だったが…… 「ははは、ハルカさまぁああなんか燃えてますぅ」 「は…?……ってえええええええええ?!」 一瞬、目を離しただけだというのに、なぜフライパンが炎上しているのか、さっぱりわからない! (それからの必死の消火作業…はあまりにも長いし決して楽しいものではなかったので省略させていただくが。) そんな騒ぎでもちろん、昼食がとれるわけもなく、冷蔵庫にあった食材も空っぽ。 (全部あのフライパンに投下したのか?無能!) 適当なファーストフードで昼食をとり、空になってしまった冷蔵庫の中身を調達。 そして、現在に至る。 「最悪…」 「う…うっ…ごめっ…ごめんな…さ…」 「…なんで泣くんだよっ」 ため息をつくハルカを見て、泣き出してしまった久能。 「怒って…ます、ハルカさま…」 「別に…怒って…ねぇ」 「怒って、ます…ひっく」 「…ちっ」 「あ…」 突然、泣いていた久能が、顔を上げた。 そこには…ハルカと久能にとっては絶対、一生忘れることはないであろう人物。 葦牙、佐橋皆人と、その鶺鴒、結がこちらの方に向かって歩いていた。 「あ、久能さん」 「鷸くん」 「結さんと、佐橋さん…こんに…ちは」 「よう…」 「久能さんたちもお買い物ですか?」 にっこり、と優しく久能に微笑む結。 それとは対照的に、ハルカの後ろに隠れふるふると震え、涙目のまま、こくり、と久能は頷いた。 「………」 「鷸くん…どうしたの?何か…?」 「別に……あー、あー、良いよな、佐橋の鶺鴒は無能じゃなくて!」 「な、なに?何か?え、何か機嫌悪い?」 「は、ハルカ…さまぁ…わたし、わたし」 「いいよなー美人だし」 ぽろぽろ、と、再び久能は泣き出す。 そんな久能を見て、また、ハルカは少しイライラする。 (ニコニコと、結は笑い続けている) その様子を見て、皆人は、ただ、頭上に「?」マークを浮かべるしかない。 しかし、そんな皆人も、次の結の言葉には、動揺せざるを得なくなるわけだが。 「では、結が鷸さんの鶺鴒になります!」 「え?結ちゃん、何言ってるの?」 「久能さんは、今から皆人さんの鶺鴒です!」 「交換っこしましょう!!」 「は?え、ええええええええ?!」 「というわけで、結は鷸さんの鶺鴒なので鷸さんのお家へお邪魔します、行きましょう」 「は、ハルカさま…!」 ぐいぐいとハルカの腕を掴み歩き出す結に、残された久能は、ただポカーンと口を開けて見ていることしか出来なかった。 (あの結ちゃんのパワーで引っ張られている鷸くんは、もちろん抵抗なんて出来るわけがない。) ―大丈夫です、きっと良い方向へ進みますよ ニッコリ笑いながら、自分にだけわかる小さな声で残した言葉。 「とりあえず、行きますか」 今は、結ちゃんを信じてみよう。 そう思いながら、皆人は久能を連れ、出雲荘へと向かった。 |