*** それはわたしのこころなの ***




今日は4月1日。
ちいさな嘘が、許される日。

「ハルカさま、エイプリルフールってなんですか?」

今日は、エイプリルフールだ、とテレビから聞こえた。
それを聞いてなのか。テレビを見ていた久能が、首を傾げている。

「嘘を吐いていい日」
「嘘を?嘘はだめです」
「うーん、なんていうか……からかい的なものなら許されるって感じかな」
「……?どうしてですか?」
「どうして……さぁ?知らねーけどそういう日なんだってば」
「ほえ……いろんな日があるんですね」

そう言って、久能はまた首を傾げた。

雪の降る季節に出逢い、暖かい季節を一緒に迎えた去年。
いろんな人の力を借りて、今年も無事に、またこの季節を一緒に迎えることが出来た。

久能は、この一年のすべてが幸せだと言い、毎日、新しい発見をして、目を輝かせている。
クリスマスにはデートをせがまれ、バレンタインデーには、いびつな形のチョコレートをプレゼントされ……
久能は、行事というものに興味津々だった。

「その顔、可愛い……久能」
「へっ!?」
「……ばーか、冗談。エイプリルフールだから」
「あ……」

ちょっと嬉しそうな表情を浮かべたが、嘘だと言われ、顔を真っ赤にする久能。

「久能、もっとこっち来い。ぎゅってしてやるー」
「は……はい」

手を伸ばすと、おずおず、と戸惑いながら近付いてくる。
何度も、俺の様子を確認して、今度は嘘じゃないかな?って警戒しているようだ。

「いいこいいこ」
「……ハルカさまぁ」
「本当は……久能がすげー可愛いなって思って、俺が抱きしめたかっただけなんだけど」
「うー……それも嘘ですか?」

久能は俺に抱き締められながら、涙目で見つめてくる。
俺が笑うと、久能は、涙目のまま、うーっ!と唸り、頬を膨らませてしまった。

「今日の久能は可愛いな、ほんと」
「また?……むぅ。今日のハルカさま、意地悪です……」
「意地悪されて嫌いになったか?」
「ハルカさまきらい……き、きらい……あぅ、やっぱり、だめです」
「なにが?」
「だめです……やっぱり、嘘、つけません……」

ぷるぷる、と首を横に振り、久能は、俺の耳元で呟く。


『だいすきです』って。


「わたし、ハルカさまへのきもちには、嘘つけません……うぅ」
「うん……そうだな、俺も……無理かも」
「……なにがですか?」
「なんでもねー。久能は嘘吐くの下手だな」
「……うぅ……ハルカさま……ハルカさまは冗談でからうの、上手です……わたし、すぐ騙されちゃいます」
「そう?俺、今日一回しか嘘言ってないけど」


俺がそう言うと、久能はキョトン、と目を丸くする。

ばか。俺の女なら、ちゃんと、どれが冗談だったのか、自分で気付け。


4月1日。
素直じゃない俺が、ちょっとだけ素直になれる日。







ハルカさまはツンデレ。