*** 日曜日、僕は荷物持ち ***



今日は日曜日。
夏に近付き気温も上がり、暑くなってきたが、買い物を楽しんでいるであろう人がたくさん歩いている。

……俺も、そのうちのひとりなんだけど。

「待ってください、ハルカさまぁ……ハルカさま、歩くの早いです……」
「久能が遅いんだって」

俺の少し後ろを、久能が歩く。
今日は、久能のワンピースを買うためにきた。
暑くなったから、新しく涼しそうなワンピースを買ってやりたいと思う。
べ……別に、可愛いワンピースを着た久能が見たい!って突然思ったからじゃねーからな。勘違いすんな。

「……それ、貸せ」
「え……でも」
「やっぱり俺が持つ」

久能の腕にはすでに、俺が買ってやったミュールが、しっかりと抱えられている。
俺が袋を持とうとしたが、久能は「ハルカさまに買っていただいた大切なものだから、わたしが持ちます」と言って渡そうとしなかった。

最初は、嬉しそうに抱える久能に、悪い気はしなかったし、それで良いと思った。
だけど……久能の歩くスピードが遅すぎる。
そんなに、重くはないとは思うが、少しでも、歩いている久能の邪魔になるようなものはない方が良いんじゃないか?

「おまえ、歩くの遅すぎ。それ邪魔だろ」
「邪魔……?じゃまなわけ、ないです……だって、これは大事な……」
「あー、もー!どうでも良いから!それに、女の子に荷物持たせるのとか、男として……」
「わたし、遅くて迷惑かけてますか?わたしが持ってると、ハルカさま、恥ずかしいおもい、しますか?」
「別にそういうわけじゃ……」
「……わかり、ました」

久能は、渋々と荷物を俺に渡した。
俯いた久能が少し泣きそうで、ちょっとだけ後悔した。
……ほんのちょっとだけ。

「別に取り上げたわけじゃねーんだからそんな顔しなくても。……あ」
「ハルカさま?え、待ってください〜!」

久能に似合いそうなスカート発見。
久能は動きやすそうな服装より、こんな感じでひらひらした可愛い感じの方が……

「ハルカさま、勝手にひとりでお店に入っていかないでください……」
「あー、でもこっちの方が良いか?」
「……聞いてますか?」
「うーん、やっぱりこっち?」
「あのぅ、ハルカさま」
「え?や、違う!別に似合いそうだから、とかじゃなくて、ほら、おまえそんなに可愛いわけじゃないから、せめて可愛い服着ないと!」
「わ、わかってますからそんなに大声で言わないでください……悲しくなります……それに、わたしが言いたいのはそんなことじゃなくて……」
「なに?え、あっちの方がいい?あ、これに合わせる上着がいるか?」


「あの……ハルカさま、それ……全部ワンピースじゃないんですけど…………」


……

………


「細かいことは気にするな」
「細かくありません……」



結局、色々と購入してしまった。
ワンピースを買いに来たはずなのに、いつの間にか両手が別の荷物でふさがってしまっている。

「ハルカさま、ありがとうございます……」
「ば、バカ!別におまえのために買ったわけじゃない!変な格好されると一緒に歩く俺が恥ずかしいからでっ」
「はい、わかってます……でも、わたし、服も、靴も、大切に使いますっ」
言い訳をしたが、頷いた久能の表情は綻んでいて、なんだか恥ずかしくて俺はそっぽを向いた。

「ハルカさま……やっぱり、荷物持ちます」
「だから俺が持つって」

そう言って視線を戻すと、久能がいない。
……ああ、また少し歩くのが俺より遅れているんだ。

(はぁ、仕方ねーな)

「久能、これ持って」
「は、はい!」
「俺はもっと大変な荷物を持つ」

ぱたぱた、と俺のほうへ駆けてくる久能。
俺に追いつくと、俺の手から荷物を取って、それから、きょとん、としながら首を傾げた。

「久能、こっちの手じゃなくてそっちで持て」
「こっちですか?あっ」

ぎゅ。

「ハルカさま、わたし、荷物、ですか?」
「スゲー面倒くさい荷物だな」
「あう、ひどいです」

お互いに、そんな風に言うけれど、俺の手はしっかりと久能の手を握っていて、久能の手もまた、しっかりと俺の手を握り返している。

女の子に荷物を持たせるのは、ちょっと格好悪いと思っていたけど。
俺の手を握る久能が、あまりにも幸せそうだから、そんなことはどうでも良いかって思った。

「あ、あれ!あのヘアピンとか可愛いんじゃねー?」
「あの、ハルカさまぁ、またワンピースじゃありません……」







ハルカは久能に俺の女なんだから黙ってついてこい!とか思って前を歩きそう。