*** Love A Riddle ***



「ふぇ、こわい……です、ハルカさまぁ」
「大丈夫だって」
「痛っ、ハルカさま、もうすこし、優しく……」
「あ、悪い……」
「や、やだ、あつい、あついのやだ……」
「んなこと言っても……おまえ、すげー濡れてるし」

ハルカさまの首に手をまわし、しっかりとしがみついているわたし。
ハルカさまは、わたしを膝の上に乗せて、頭を撫でていてくれます。

でも、こわくて震えが止まりません。


どうしてこのような状況になっているか……というと。


ゆっくりと入浴して、脱衣所から出ると、ハルカさまがわたしをじっと見つめていました。
わたしの先にお風呂に入り(わたしは、一緒に入っても良いのですが……)お部屋でテレビを見ていたハルカさまでしたが、視線はテレビに戻りません。
あまりにも、熱い視線を送ってくるので、わ、わたしは、このまま、ハルカさまに……ハルカさまと、恋愛のABCのZあたりまで行ってしまうのではないか……と、おも、思って、おもっ……

「おい、久能」
「ひゃ、ひゃい!」

見つめられたまま名前を呼ばれ、わたしの心拍数はぴょんと跳ね上がり、不思議な返事をしてしまいました。

「髪の毛、ちゃんと拭け」
「ふぇ?」
「あー、それじゃ、風邪ひくから!」
「きゃううっ」

ハルカさまは、わたしの手元にあったタオルを無理矢理奪うと、乱暴にわたしの髪の毛を、くしゃくしゃ、と……

「ふえーん、痛いです」
「ったく、じゃあちゃんと自分で乾かせよ……ドライヤー持ってくる」
「!!いやです、あれ、いやです、こわいですぅ」
「はぁ?」
「ごおおおおぉおお!ってして、あつくて、こわいです……や、やだ、いやです」

ぷるぷる、と震えるわたしにはお構いなしで……ハルカさまの手にはドライヤーが。

「やだ、ふぇえん……ひっく、ひっく」
「おい、泣くことないだろ……ただ、俺はおまえが風邪ひくと思っ……あ、鶺鴒って風邪ひくのか?うーん?わかんねーけど、おまえ弱いしなぁ……一応……」
「うぇ、うぇええん……」
「だから泣くなって……あー、もういいよ、ここ来い」

テレビの前に座り、テレビを消すと、自分の膝をぽんぽん、と叩くハルカさま。
その上に座れ……ということでしょうか。
いつものわたしなら、喜んでハルカさまの腕の中へ飛び込むのですが。
ハルカさまの手には……アレが。

―ぶぉおおおっ

「あぅ、あぅー!!」
「もーっ!」

ハルカさまにぎゅってしてほしい、でもアレはこわいです。
泣きながら迷っていると、しびれを切らしたハルカさまに手を引っ張られ……すとん、と、わたしはハルカさまの膝の上へ。

「はぁ……俺がやってやるから、黙って目瞑ってしがみついてろ」
「くすん……わかり、ました」

ハルカさまの首に手をまわし、ぎゅっとしがみつくと、わたしの頭のあたりに温風が当たる。
そして、ハルカさまが指でわたしの髪の毛を梳かし始めました。


……こうして、今に至ります。


「こわい……あうーあうー」
「あぁ!おまえ、少しは黙ってられねーの!?」
「むーりーでーすぅー」
「はぁ……俺は、おまえのこと心配して……」
「ハルカ、さま?」

ドライヤーのスイッチがoffになる。
静かになった部屋に、少しトーンの下がったハルカさまの声だけが聞こえる。
目を開けると……

ハルカさまが、少し悲しそうな顔を……していました。

「なんか……俺ばっかりおまえの……好き…みてぇ」
「ハルカさま?」
「風邪とかひいて、体調悪くて逃げれませんでしたーとか、嫌だからな、俺」

ハルカさまは悲しそうな顔をしたまま、わたしを抱きしめ、首のあたりを触って……

「あ……」

首のあたり……ハルカさまが触っているのは

―鶺鴒紋。

「逃げれなかったら、機能停止……しちゃいますね」
「ずっと、いっしょ……いたいの……俺だけ……か?」

わたしが弱いから。
体調を崩してしまったら、わたしは間違いなくハルカさまのお荷物になってしまう。
呟いている言葉は小さくて聞こえませんが……もしかしてハルカさまは、わたしが迷惑をかけることを心配して?

「ごめんなさい……」
「別に謝らなくて良いけど」
「わたしじゃ、勝てない……ハルカさまを守れない……」
「無能なおまえに守ってもらおうとか思わねーよ」
「無能じゃ、ないです」

でも、鶺鴒紋も葦牙さまも、わたしひとりじゃ守れない。
また、泣いてしまいそうになる。
だめなわたし、だめなわたし。

「なぁ……」
「はい?」
「なんか他に方法、ないの?勝つ以外に」
「え?ハルカさまを嵩天へ導くことですか?……ある、と言えばあります」
「え、は?俺?嵩天へ?……なんか、違うような……うん?でも、どんな方法だ、それ」

ハルカさまは、(少しなにか言いたそうでしたが)わたしの言葉の続きを待っている。

「鶺鴒を増やせば良いと……」
「……は?」
「……わたしの他に鶺鴒を羽化させれば……わたしが羽化できたんです、他にも反応する子がいるかもしれません。強い鶺鴒なら、ハルカさまは……」
「でも、残れるのは一羽なんだろ?」
「あ、はい……わたしが機能停止しないことには繋がらないかもしれませんけど……でもハルカさまはそれで……」
「じゃあ意味……ないだろっ!バカ!無能!」
「きゃうんっ」

答えていたのに。
ハルカさまに頬を引っ張られ、続きが言えなくなりました……

「いひゃいれす、痛いれひゅ、はなしてくらひゃいっ」
「はなさねー!おまえがバカだからっ」
「ふにゅうぅうう」

暴れようとしても、ハルカさまは手をはなしてくれません。
それどころか、もう片方の手はわたしをがっしり押さえ付けていて……動けません。

「あーあ。これ、俺、片想いしてるみてぇ……はぁ」

しばらくすると、ハルカさまはため息をつき、手の力を緩める。
そして、最後にぺちりと軽くわたしの頬を叩くと、ハルカさまの手がはなれていった。

「片想い?はは、ハルカさま……っ?!だ、誰ですかっ」
「あはは……ケンカ売ってる?そろそろキレていいか?」
「ぅえ……?」

ハルカさま、目が笑っていません……
(思わず目をそらしてしまいました。)

「あぅ、あぅ、でも、いやです」
「なにが?」

「わたしは、その方法、嫌です……ハルカさまが、他の子に俺の女って言ったり、キスしたり、するの、いやです……わたしだけに、してほしいです」

わたしはきゅっと、ハルカさまの服を掴み、俯きながら言いました。

(……きゅん。)

「く、くぅっ……」

(あれ、あれ??)
いつもみたいに、「無能のくせに、なにワガママ言ってるんだ!選べる立場じゃないだろ!」って怒られる、と思ったんですけど……。
顔を上げると、ハルカさまの顔は茹でたタコみたいに真っ赤になっていました。

「うぁあ、なんだよ、いまの、きゅんって!なんだよっ!!なんで俺がきゅんとしてんだよ!」
「は、ハルカさま?きゅ、きゅん?」
「あー、くそっ」
「はわ……っ」

真っ赤になったまま、意味不明な言葉を叫ぶハルカさま。
そんなハルカさまに、わたしは、
ぎゅっと、先程よりも強く抱きしめられちゃいました……っ!

「は、ハルカさまっ」
「わ、わりぃ、痛かったよな」

だけど、わたしが驚きの声を上げると、すぐに離れてしまう。
(少し残念……。)

「俺……誰にでも、こんな風に抱きしめたりするような奴に見えてる?そんなに信用ない?」
「あの、ハルカさま……」

そんなひとじゃないって、わたしが一番知ってるから。だから。
そんな風に言われると、わたし自惚れちゃいそうになります。

「良いん……ですか?わたし、もう少し、ハルカさまのそばにいても」
「っ……!!」

やっぱり、自惚れだったのでしょうか。
ハルカさまが……怒ってる。

「おまえ本当になんなの?バカなの?無能なの?」
「ひゃうう!無能じゃないれしゅ」

早口で捲し立てられ、また頬をつねられました。

「もう少し、じゃないだろ……ず……とで、いい……俺、方法考えてみるから」
「ぅ……?」
「おまえは俺の女なんだから……久能だけ、だから」

ぼそぼそ、と何かを呟いたと思ったら。
今度は頬を優しく撫でられ……くちびるに柔らかい感……触……?
ほんの一瞬、ちゅっ、と、小さな音を立ててそれは離れる。

「……んん!?あ、あの、今の、」
「知らねぇよ、もう」

そう言って真っ赤になるハルカさまに、わたしはまた抱きしめられてしまう。
ハルカさまに強く抱きしめられるたびに、わたしの顔も、鶺鴒紋も熱くなって、心臓がどきどきして……

「ちょ、……なんか、すごい音聞こえてるんだけど、俺……?」
「す、すみません……これ、わたしです」

そのどきどきは、ぴったりとくっつくハルカさまには、しっかりと伝わっちゃってるみたいです。
それが恥ずかしくて、またどきどきして。
そのうえ、ハルカさまがわたしの耳元で喋るので、わたしのどきどきはどんどんスピードをあげていきます。

「久能、なんでこんなになってんの?」
「何で、だと思いますか?……きっとハルカさまにはわかると思います……ハルカさまにしか、わかりません」


わたしは、ハルカさまの背中に手をまわし、きゅっと抱きしめ返す。



言葉にしてしまうと、消えてしまいそうな恋だから。
だけど、この加速するどきどきから、このきもちが伝わるように。







恋の謎かけ。両片想いが書きたかったけれど、元々出逢って即両想いなふたりなのであれでした…