*** さんぽびより ***




「どうしよう……」

バイトからの帰り道、激しい雨が降ってきた。
このまま、濡れて帰るべきか、それとも、雨がやむまで待つべきか。
そんな風に考えながら、雨をしのげそうな場所で立ち止まり、俺は空を見上げていた。

「皆人さん!」

迷っていたそのとき、突然、自分の名前を呼ばれ、少し驚く。

「え、結ちゃん?!」

一瞬、自分の耳を疑ったが、振り向いたそこには、たしかにいた。

「どうしてここに?!」
「皆人さん、傘を持っていなかったような気がしたので……迎えに来ました」
「ひとり?」
「はい、結が一番最初に気付きましたので……こっそりです!一番最初に気付いたわたしの特権です!」
「あ、あはは……そっか、あ、ありがとう」

どうやら、濡れて帰ることも、雨宿りをすることもしなくて良いらしい。
すごく、助かった……!
でも……あれ?

「傘、は……?」

俺が傘を持っていなかったような気がした……ってことは、傘を持ってきてくれたんだよね?
俺には、1本しか……見えない……んだけ……ど

「?わたしがさして……あ……っ、うぅ、すみません……結、うっかりです……皆人さんの」
「結ちゃん、ここで待ってる?俺それ使ってもう一本買って……」
「いいえ!あの、これ二人で使いましょう!」
「そうだね……ってえ?」

これっていわゆる、相合傘?
な、なんだかすごく、

「は、恥ずか「行きましょう、皆人さん!!」
「ちょおおおっ!?」

恥らう間もあたえてください!
しかし、結ちゃんのパワーに勝てるわけもなく……ぐいっ!と腕を引っ張られ、あっさり傘の中へと入れられてしまった。

「えっと、俺が持つよ……」

せめて、自分が傘を持とう、と思い、結の手から傘を取ろうとする。

「いえ、わたしがお持ちします」
「でも、結ちゃんより俺のほうが身長高いし……そっちの方が楽だと思うし……」
「そっか……そうですね、ではお願いします」

最初は遠慮した結ちゃんだったけど、納得し、にっこり笑って傘を渡してくれた。
すこし、ほっとした……。
(女の子に傘をさしてもらってたら、なんか格好つかないし……。)

「皆人さん、わたしのほうに傘傾けなくても大丈夫ですよ?」
「でも、結ちゃん濡れちゃうし……」
「皆人さんが濡れちゃいます」

二人では、小さな傘にはおさまりきらない。
しかも、微妙な距離を保ち歩いている二人だ。

「俺はいいよ」
「だめです!……こうすれば濡れません!」
「わわ、わぁ!む、むすびちゃっ、」

そう言って、ぴったり、と結ちゃんが俺の、俺の腕に、腕を回してくっついて……
(む、む、む、胸が!!)

心臓が口から飛び出しそう!とはまさにこの状態。
どきどきが止まらない。ど、どきがむねむね……!
(ってあれ、なんか変?俺動揺しすぎ!?)
だけど、結ちゃんは、そんな俺の気持ちなんて全然お構いなしに、嬉しそうに笑う。

「今日は散歩日和ですねっ」
「あ、雨なのに?」
「いいえ、結にとっては皆人さんと手を繋いで歩ければ、いつでも散歩日和です!」

えへへ、と結ちゃんはまた笑い、傘を奪って、ぎゅっと俺の手を握った。

「そっか……結ちゃんとなら……」

大好きなひとと、一緒に笑って歩ければ、いつでも散歩日和。

「……いいね、そういうの」

どきどきは全然止まらないけれど。
なんだか、そう思ったら嬉しくなってきて。
ぎゅっと、結ちゃんの手を握り返す。

「…?あー、皆人さん見てください!きれいです!」
「あ、本当だ!」


いつの間にか雨は上がって、あおいそらがのぞく。
結ちゃんが指をさしたそこには、きれいな虹が見えていた。







抜け駆け結ちゃん。どうですか?ちゃんと甘いですか?